指紋認証しない母の手に思うこと

shimon_ninsyoスマートフォンのロックの認証で、指紋認証ができるものに機種変更しました。暗証番号でもいいんですが、最新機種には備わっている機能だったのでどうせなら使ってみようと試してみると、これが意外と便利なんですよね。指を動かさなくても持っているだけで認証してロック解除されますから、作業が一手間減った感じで心地よいです。

その指紋認証を親に話したところ、やってみたいという話になったので試しに母の指紋を登録しようとした時の話です。どうにも母の指紋が正しく識別されず、認証できないんですよね。指紋登録の段階で無理なんです。父や私はスムーズにいくのに、なぜか母だけ。それで気になって母の手を見てみたら、長年の家事で手はガサガサになり、指紋がよくわからないような指になっていました。私が子供の頃、いや生まれる前から、母は家事を一生懸命頑張ってきたんだなぁと、なんだかほっこりした気持ちになると同時に、感謝の念が溢れてきました。母の手を取り指を見てシミジミする私に、母は「どうしたの」と声をかけます。母にとってこの手はもう普通のことであり、私が色々感じているのが不思議なくらいになっているんですよね。

私は次の瞬間、気付いたら「ありがとう」と言っていました。母は突然どうしたんだという表情で驚きましたが、私が母の指を見ていることでようやく意味を理解したようで、ニッコリと微笑みました。スマートフォンの指紋認証を試そうというだけのどうでもいいような時間が、突然暖かい空間に変わりましたね。

その日は母と一緒に料理をして、父と3人で食卓を囲んで昔話に花が咲きました。私も将来結婚して子供を生んで、こんな手になるのかなと思いましたが、それは不思議と不安とかではなくて、母のようになりたいという気持ちから生まれた感情でした。母の手は、立派な「母の勲章」だったのです。